民宿雪国(樋口毅宏)
晩年、国民的画家にまでなった「丹生雄武郎」を描いた小説。
とにかく絶賛の嵐だった本なので手に取るとプロローグは「丹生雄武郎は2012年8月15日に亡くなった」とある。三島由紀夫の「永いあいだ、私は自分が生まれたときの光景を見たことがあると言い張っていた。」を彷彿とさせる滑り出し。いきなり「これは大法螺ですよ」という但し書きに等しい書き出しにニンマリ。
昭和の黒歴史と合いまみれながらスプラッターに彩られつつ綴られる画家の虚像。あっというまに読了。確かに面白いエンターテイメントでありました。
さて「破天荒な構成、余韻の残る読後感」と大絶賛のオビでありますが、こういう構成はイキが良かった頃のスティーブン・キングであって、この作品がエポック・メイキングかというと違うかなと。しかもストーリーが第一章からどんでん返しの繰り返しで、読者の予想を裏切りまくる展開。登場人物は一人も信用できないから感情移入しようもなく、確かにちょっとロマンチックな物語の結び方ではあったけど、最初から信用のおけない人物たちなのだから、その余韻だって嘘くさい。
どこにも誰も書いてないけど、やっぱりこの作品ってスティーブン・キングを思わせるなぁ。但しアメリカという土壌ではないので宗教観だのなんだのが日本的になっているけどね。ストーリーとか読後感にコクを求めるなら、往年のキングでしょう。「破天荒な構成、余韻の残る読後感」はやっぱり言いすぎ。
しかして楽しむところはソコにあらず、インチキ臭さとか文章のスピード感であったり、色々なところに散りばめられたパロディー・批判を検証してみたりというところが面白いわけで、なかなかの佳作でありました。
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