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February 09, 2005

「李香蘭」を生きて(山口淑子)

rokoran 日経に「私の履歴書」で書かれていた、山口淑子の自伝が本になったもの。
 文字数は少ないですが、中身は当然、濃厚です。そらそうだろう、数奇な運命を生きている人だからね。
 冒頭で、ベルートで会った老婦人から、「この子をあげるから、日本でユダヤ人より立派な教育を受けさせて欲しい」と赤ん坊を渡されるクダリもタダゴトではないのだが、本編では更なる衝撃的な人生が語られています。

 近年テレビのスペシャル・ドラマとかに取り上げられたような気がしてますが、李香蘭という人を知らない方に少し説明しましょう。
 日本が作った中国大陸の傀儡国家「満州」で生まれた日本人「山口淑子」は、当時流行っていた親しい家族同士の義理の家族の証として、「李香蘭」の名をもらう。たまさか始めた歌を認められ、中国でウケの良い様に、「李香蘭」をそのまま芸名とし、その後、満州映画協会(満映)の国策映画に中国人の女優として出演、日本国内でも大変人気になる。
 日本の敗戦が決ったのち、スパイ容疑として中国国民政府の漢奸(中国人でありながら国を裏切り外国の手先となったもの)裁判にかけられるが、どうにか放免される。
 戦後は女優、政治の世界へと活躍・・・こうして書くと、なんてコトなく思えます?

 本人、当然作家ではないので、職業的修飾が施された文体ではない、生の語り口がとてもリアルです。
 戦傷者を沢山乗せた列車が夜、襲撃されないように止まっているとき、戦傷者たちに歌を聴かせるために、皆の見えるところまで列車を降りて草原を走ったという話や、漢奸裁判にて日本人であることの物的証拠を取り寄せるにあたって、両親が日本人形の帯に戸籍抄本を隠して送る話は、映画にしてもグっとくる場面です。

 アジアカップでの中国の状況を見てもわかるように、抗日運動は、まだ続いていると言っていいでしょう。その諸悪の根源として、一連の事件が語られたりしますが、そうした事件は現象であり、本当の部分はどこなのかを、紐解く鍵となる本だと思います。パスレチナ問題のユダヤ人とアラブ、そしてアメリカの関係と同じように、中華思想と日本人の感覚のズレという暗喩が、ここにあるような気がしました。

 蛇足でありますが、ワタシのバンド「侍黒伍」の1次メンバーでのliveの開始時には決まって、この「李香蘭」が中国語で歌う「ライム・ライト」をかけておりました。チャールズ・チャップリンの名曲ですね。
 この曲をみつけたときに、満州で活躍した歌手が、ナチから逃れてアメリカへ亡命したユダヤ人の歌を中国語でうたう心情を、いかばかりかと思っておりました。ふたを開けてみると、戦後ふたりは交友があったということで、「なるほど」と思った以上に、アメリカのレッドパージの煽りをくった者同士の邂逅をみた気がします。

 満州を生きた人たちは、その設立を狙った意思(決して五族協和でなかったと言っていい)とは別に、国家・イデオロギーとは関係なく、自由に人間を表現したかったのではないかと、思うのです。しかし、結局その国という手のひらの上で踊っていたのも事実で、それではその国とは?人間の運命とは?を考えてしまいます。
 それでも踊るのをやめられない人間を悲しくも、愛してやみません。

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Tracked on August 22, 2005 at 11:36 AM

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