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August 07, 2004

長距離通勤電車の掟と挫折

eki2 東京都の仕事場まで、片道1時間の東海道線で通っている。1時間は東海道線に乗っている時間であり、最寄の駅に行くまでの時間もあれば、東京の駅で別の電車に乗り換えて、という時間もあるわけで、通勤には大体2時間くらいの時間がかかる。
 朝は当然早いが、そんな田舎の駅なので、激混み通勤電車で有名な東海道線でも、座っていくことが可能で、小一時間睡眠をとることも出来る。貴重な睡眠時間だ。
 座ることが可能だといっても、駅に着く電車の席の半分以上は埋まっているので、ホームで並んで座れる人数だけが乗り込んでしまったら、次の電車を待つ。東海道線はボックス席で座れる人数が多く取れるのと、通勤タイムのダイヤは5分おきくらいなので、1本やり過ごすくらいですぐ乗れる。こうした待ち時間を見込んで、朝、家を出る時刻を調整するのである。
 このようなやり方は、誰に教えられるわけでもなく、毎日通っていくうちに覚えていき、決まった生活リズムを送っている会社員は全て、そうした電車の乗り方をしている。サラリーマンは毎日決まった時刻に会社に行くわけだし、大体いつも同じメンバーが同じ時刻に電車に乗ることになるのは、自然の成り行きである。朝の遠距離通勤電車は、そういうわけで、不文律の乗り方が出来ており、切実な掟があるのだ。

 掟のひとつは、どんなに混んできても、ホームで列をきれいに作るということ。空いている席は、早いもの順で自分のものになる。朝の早よから席の取り合いで熱くなるのは、エネルギーの浪費以前に、大人として格好悪い。公平に順番が分かり易くなるような配慮であろう。
 またひとつは、車内で音をたてないこと。一般的に当たり前の話であるが、朝の電車はみんな眠っている為か、ひときわ静かである。新聞をめくる音だってしないのだ。
 掟は人の為を慮ったものであり、それがまた自分の為である。また、変にギスギス争うエネルギーを避けるものである。こういう身についた掟をスマートに守ることこそ、ジェントルと呼べるものであろう。

 夏休みに入って学生も減ったのか、朝の電車は空きだした。いつもの駅で乗った電車は数分の停車時間があり、普段ならあっというまに埋まってしまう席も、まだ少し空いた席が目立っていたのだが、突然静寂をかき乱す者が現れた。
 小学校高学年くらいなのだろうか?女の子4・5名が座りこそしなかったが(多分皆で一緒に座れないなら、立っていようという考えなのだろう。甘いね。ここから先、東海道がどんなに混むか知らないんでしょう。)会話からお友達同士でディズニーランドへ行くことが聞いて取れる。というか丸聞こえ。盛り上がりまくっていて、とても興奮して居る様子で、しかもその位の女の子の声は周波数が高く、もの凄くうるさい。叫んでいるようである。「キャーッ」とか言っている。
 とうとう堪りかねた初老一歩手前の紳士が「うるさい!ここは幼稚園じゃないんだぞ!」と一喝をくれた。ジェントルとは通常、人様のため皆が気持ちよく過ごせる為の、自分を差し置いた静かな優しさであると思っているのだが、この場合の様な「一喝」は社会人として喝采しても良い毅然たる行為だろう。まして相手は、初めて子供同士で電車という社会に乗り出て、遊びにいこうかという年代である。しかるべき態度で、社会を生きるとはどういうことか教えることに、誰も異論は無い。
 当然その場はしんと成った。こそこそ声もない。「よく言った。貴方は尊敬すべき方だ」という空気がそこはかとなく流れているが、もとより他の人たちは文字通り目を瞑っているのだ。これから自分達が向かう会社の仕事という一大事の前に、心落ち着かせ、少ない睡眠時間を取り戻そうと・・

 そうした静寂が再び戻り、電車の停車時間も過ぎ、発車の合図のアナウンスが流れ始めた刹那、慌てた様子でドアが閉まる寸前に飛び乗ってきた集団があった。「ひえーっ」と各々が奇声を発し、「あらっ、カネコさんっ。こっちこっち、こっち空いているわよ。あなたはそこに座ればいいわ」などと言っている、50を越えたかという女性が3人、通路を挟んで隣り合ったボックスに陣取った。もう会話の内容など聞きたくもない、この方々も発車寸前の列車に飛び乗るという大冒険をしてきただけに、興奮していらっしゃる。少し落ち着いたかと思ったところで、あろうことか一人が、胡麻煎餅を取り出し、皆に配って食べ始めた。そこでまた会話が弾む。やかましいだけではない。煎餅だって匂うのに、ゴマだぜ!ありえない。強烈な香ばしさだ。考えたことがありますか?朝のクールでジェントルな通勤電車の中で、そういうお茶の間の匂いが香る感覚。猛烈にゲンナリしますよ、旦那。さっきの威勢の良いオヤジはどうした?なんか言ってやれ!なんでみんな黙っているんだ?!俺?俺はいいよ・・小市民だし・・。なんとか言っておくれよ。さっきはあんなに毅然とした態度の紳士だったじゃないですか。もう眠ってしまったんですか?眠れるワケないですよね・・ねぇ・・
 そういえば日本のジェントル・メンの代表、不条理なものに対して「駄目だこりゃ」と言ってくれたあの方も、今はもういないのだ。

 矢作俊彦と司城志郎の名作「ブロードウェイの戦車」という小説の中で、家族でモノポリーをいくらやっても勝てないと嘆いている上司に対し、敏腕CIAのエージェントはこう語っている。
「モノポリーで勝つ秘訣を教えましょう。奥さんを相手にしないことです。」
-LOMO LC-A KODAK GOLD200 品川駅にて-

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Comments

遠距離通勤、お疲れ様です。
私も、片道2時間弱の通勤を強いられています。
でも…私、電車の中では眠れない性格なんです…。
なんていうか…緊張してしまって…。
なので、いつも睡眠不足気味です(T_T)

Posted by: 愛野 | August 07, 2004 at 12:27 AM

愛野さん、はじめまして
長距離を通うことは学生時代からなので、もう慣れましたよ。(^^)
電車で眠れないというのは、残念ですね。
あの走っている時のリズムは、眠るときには結構良い気持のものだなぁと、思います。
シートがもっと気持ちよいとサイコーなんだけどな。
でも、世知辛い世の中ですから、隙だらけで居るのも、よくないですね・・

Posted by: BARI | August 07, 2004 at 04:46 PM

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